「思い出は雪の彼方に……」
ここは、名瀬樹さん作『アンダー・ラグ・ロッキング』(電撃文庫刊)を勝手に書評してしまおうという、恐れ多いコーナーです。
この『アンダー・ラグ・ロッキング』という小説は、ワタクシ三鷹が、発行から1年半(2005年初頭現在)も経過した今もなお何よりもおもしろかったと思っている作品です。あまり解ってくださる方がいらっしゃらないので、単に私が妄信的なのかも知れませんが、そうだとしてもとにかくこの思いをカタチにしてみたいと考え、つたないページをでっち上げてみました。
とりあえず、あのラスト(兼冒頭)の名シーンの舞台となる雪原と、小説が持つ儚さをイメージしてこんな色調にしてみましたが、見にくいですね…(汗)。
既読の方に共感をしていただければ、作った方としては幸いです。未読の方は、少々ネタバレもありますので読むのはちょっと考えてからにしてください。でも、私の駄文読んで買う気になってくれたりしたら、それはそれでとても幸せですので、読むな、とは敢えて言いません。
って言ってもネタバレだし所詮自己満足なので、この私の駄文を読んでいただいても、おもしろいかどうかは微妙です。こんなものより作品の方を読んだ方が絶対おもしろいことは保障します。
【小説の概要】
アンダー・ラグ・ロッキングは、2003年(平成15年)6月(だったかな?)に電撃文庫から刊行された、戦争モノの小説です。主役は14〜15歳(作中で時間の経過があるため)の少年雪生と少女春です。
それだけ聞くと、けっこうライトノベルではありがちな設定に聞こえるんですが、この小説が他と一線を画しているのが、戦闘シーンには全く重点が置かれていないことです。飛行船のガンシップとはちょっとデンジャーな設定ですが、剣を使って戦うわけでも、魔法が出てくるわけでもなく、武器はあくまで機銃、戦闘は殆ど遠距離です。軍の情勢の変化は、それ自体を見せるためのものではなく、間接的にキャラクターたちの心境の変化に現れていったりするためのものだったりします。従って戦闘シーン自体は非常に淡々と進みます。
また、悩む主人公たちに、明確な救いや結論といったものが示されないもの特徴です。途中で納得いける結論が出たと思ったら、最後の最後で(構成上は冒頭で)思いっきりぶち破ったりしてくれます。
短編連作の形式を取っていて、単行本で一番前に来る話が物語の上での結末になります(ここは単行本書下ろしです)。次が一番過去の話で、単行本で一番最後に来るのが、二番目に新しい時期、つまり第一話の少し前の出来事になります。まあ要するに、全体は時間順に並んでいて、結末だけが先頭に来てるわけです。目次のページに時期と二人の年齢が書いてあるので、確認は容易です。
私はあまり詳しくは知りませんが、第2回電撃hp短編小説賞受賞作の一編に次々と短編を加えて完成したのが、今単行本で出ているもののようです。
【私的な感想】(ここから先はまさにネタバレなので注意!)
感想ですが、この話はとにかく切ないです。春と雪生の結末は、彼らに取る事のできた行動の中でも最悪のものと言えます。作戦中に敢えて何もせず、結果として自分達の所属する飛行船は意図したとおり敵に撃墜されてしまう。中に乗っていた仲間も、恐らくは…。でも仕方ない。世界を少し変えるために、何かをしなければ行けないと思ったから。けれど世界は何も変わらず、自分達の唯一の居場所をなくしただけ。あまりにも切ない結末です。二人には、他に選択肢はなかったのでしょうか。
一番最初にこの結末を見せられて、その次に、少しは幸せだった二人のこれまでの軌跡を見る。ハッキリ言って、結末を知った後では、この幸せさえも切なく思えます。ええ、切ないです。もっかい言います。切ないです。
笑えないし、泣けない。切なくて儚いだけ。そんな小説です。だけど、登場人物を安易に死なせるのではなく(死ぬことは死ぬんですが、死に別れたこと自体にはあまり問題提起がないのです)、基本的には生きたままで話が結ばれます。敵を倒すのではなく、夢半ばで倒れるのでもなく、ただ自分たちの居場所をなくして話が終結する。こんな静かで切なくて悲しいお話は、他にはなかなかありません。
単行本の一番最後の空白の中にポツンと書かれた文、「あの子は今、僕の側にいない」は、結末のさらに先を示唆しています。単行本の中で一番最後の話、『夏夜物語』では、冒頭で彼らが起こした事件のその後をほのめかす文が他にも散見されます。
結局、この二人はどうなってしまったんでしょうか。
重すぎる罪を犯し、おそらく軍から罰を受けたのは判ります。そしてその結果、「あの子は今、僕の側にいない」というのも解ります。だけど、結局何がどうなったのかは解らず終い。できれば、解説のようなものか続編が欲しいとは思うけれど、謎を引いたまま終わらせるのもまた魅力的ですね。
それにしても、本当に読後の印象がキレイな小説だと思います。戦争という、この世で一と二を争える汚い物を描くために、子供という汚れのない存在を用いて、草の海や雪原といった美しい舞台の上で、しかもあくまでもきれいな言葉を使って、簡潔で静かな文体により描いていく。残虐なシーンももちろんあるのに、それを感じさせないまま淡々と物語は続いていきます。インパクトは薄いかも知れませんが、それこそがこの小説の良さだと私は思います。
【同志求む!】
述べた! 述べました!! ちょっと力尽きた…。でも、私が思うアンダー・ラグ・ロッキングという小説はこんな感じです。
読んでいただいた方、ありがとうございます。すっ飛ばしてここまで来られた方もありがとうございます。ネタバレしてチクショーと思ってる未読の方、是非この作品を読んでみてください。ワタクシ、三鷹が推奨する(何の権威付けにもならんけど)、ライトノベルで最も推せる一作品です。
私は、同志を求めます。「アンダー・ラグ・ロッキングが好き」って言ってくださる方は、掲示板とかメールにその旨を送信していただけると私は嬉しくて夜も眠れないかも知れません。もしHPをもっていらしたら、是非相互リンクをお願いします! もちろん、もっていない方も遠慮無くご意見、ご感想をお聞かせください。