更地のノート>物語>死んでも懲りない(2/2)

 
 
 
死んでも懲りない(2/2)

 
 


 

←戻る




「……そっか、そういうことか」
 真璃は笑った。
 浩二は驚いて真璃を振り返る。
 真璃と出会った時のは時間の概念が無いこの世界だが、彼女と出会ってそれなりのやりとりは交わしている。その中で誰かを殺した話も何度か聞いたし、興味がないわけではない。でもそれを知りたいとは思えない。それ自体に不快感を感じる。
 そして今また不快感を覚えた。真璃が、さっき誰かが言った積極的に誰かを殺そうとする提案に乗るのではないかと危惧する。そしてそれに不快感を覚える。どうして不快感を覚えるのかは浩二自身もよくわかってない。
「なら話は簡単だね、父黒君」
 しかし真璃の口から出てきた言葉は、浩二が危惧するような殺し合いを肯定する言葉ではなかった。
「つまりアイツらを倒しちゃえばいいんだ」
 いたずらっぽく笑って浩二に目線をくれる。
 またトラブルに巻き込まれる予感だ。ため息をつきたくなる。
 しかしなぜか安心もした。呆れのため息とは違う、別の吐息が浩二の口から洩れる。
 そこへ。
「……おい、そこの高校生の男女」
 馬面の方から話しかけてきた。
 何人もいる新入りの中で、明らかに浩二と真璃の二人へ刺又を向ける。
「驚いた、獄卒が”高校生”なんて言葉知ってるんだね」
 真璃が能天気に呟く。
「こないだ賽の河原で赤鬼がお世話になったそうだな」
 馬面が番えた言葉に浩二は苦笑いをする。
 そうするしかなかった。
「だって崩されるのかわいそうだったからさ」
「それがアイツの仕事なんだよ」
 と言ったのもつかの間。
 浩二が馬面の踏み出しに気づいた時には既に刺又は真璃を捉えていた。
「うっ……!?」
 土埃と共に数メートルも後方に転がり、しりもちをついた状態からすぐに真璃が立ち上がる。
 右側頭部を押さえている。押さえた指には血液が。これでも手加減をしていたらしい。
「あいつは俺の同期なんだ、かわいがってくれてどうもありがとう」
 真璃はしばらく呆けていたが。
 やがて浩二と目を合わせて。
「どのみち私達はコイツと戦わなきゃダメみたいだよ、ちょうどいいや」
 浩二はため息をつく。今度こそ呆れのため息だ。
「謝った方がいいんじゃないか、勝てないだろこんな奴」
「勝てなくはないでしょ。時間と命はいくらでもあるから」
 指についた血液を舐め、落としたナイフを拾って。
「獄卒を一人残らずぶっ倒して生き返ればいいんじゃない?」
「そんなのできるのか」
「いや、獄卒なら誰かしら方法知ってるでしょ。現に殺し尽くせば戻すって言ってるんだから」
「だからって」
 人間の力では足元にも及ばないような怪物どもを相手に何ができるというのか。
「父黒君、私は生き返りたい」
「へ?」
 唐突に真璃が呟く。
 その声は馬面にも聞こえていたらしく、馬面はニヤリと笑った。
「あさましいな。人を殺して自分も死んで、尚生き返りたいとは」
「死んじゃったら、アイツを殺した意味がなくなるから」
 真璃は手に持った小さなナイフを構える。
「だから生き返ってやるんだ、絶対に」
「殺し尽くせば生き返してやると言ったはずだが?」
「どうせ殺すなら悪い奴でしょ」
 馬面の怪物と対峙する。
「どうやら貴様らは等活地獄では足りんようだな」
「俺もか!」
 浩二が非難の声をあげたが、もはや馬面の怪物も真璃も戦うことしか考えていない。
 それどころか、各々武器を手にした一同も今は空間を空け浩二たち二人と怪物のやり取りを傍観している。
「等活だか就活だか知らないけどさ」
 真璃が、血のついていない方の手で浩二の手を握る。
「やろうか」
「……ああ」
 全く無謀な戦いだ。
 でも。
 握られた手に温もりを感じると。
「なんとなく勝ちたいような気がしてきたよ」
 浩二のその言葉に真璃が微笑んだ。
 

更地のノート > 物語 > 死んでも懲りない(2/2)