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 暫くしてから消防車が現れた。
 その頃には宗佑も理穂も家から完全に引き離され、強力な放水にさすがの火勢も一気に弱まる。
 不安が徐々に現実のものになる。
 家の二人が姿を現さない。
 完全に鎮火したのは、それからまだ三十分ほど後のことだった。
 警官も中に入って、何やら調べごとをしている。その間に、三人の巫女が現れた。一人は、昼間の結婚式の時に司会のような役をしていて、啓太が死んだ時に宗佑に話しかけた女。もう一人も啓太が死んだ時に来ていた女。以上の二人、特に後者はかなり若いのに対して、三人目は見たことの無い中年から老年の間くらいの、背の高い巫女だった。
 やがて消防車が帰り、警察は三人の傍観者と巫女達の所へ来る。
「恐らく台所からの出火ですな。揚げ物でもしていたのでしょう」
 宗佑が口を開こうとした瞬間に理穂に塞がれた。
「それから家のお二人ですが、残念ながら……」
 と、警官はあまり残念ではなさそうに言う。
「え……」
 思わず声を漏らす宗佑を、今度は理穂も止めなかった。
「どうなさいますか?」
 と、結婚式の時の巫女が尋ねる。
「え、どうって? 何が?」
 素っ頓狂な声をあげる宗佑の代わりに。
「いいえ、結構です」
 理穂はぶっきらぼうに答える。
「さようですか。では」
「ええどうぞ遠慮なく」
 睨み半分に見返す理穂。
 巫女達はにっこりと笑って。
「行こう、宗佑」
「え? どこへ」
「いいから」
 踵を返した理穂は、さっさと田んぼの方へ向かってしまう。
「宗佑様、お待ちください」
 追おうとした宗佑を呼び止めたのは巫女。
「結婚式の折、この村の掟に従いなさいと申し上げましたね?」
「え? ああ」
「くれぐれも命をお大事に」
 警官の先導の下、巫女達は焼け跡へ踏み入っていく。
 理穂の姿はとっくに見えなくなっていた。月も明かりもない夜、足音だけを頼りにその足跡を踏み重ねる。
 

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