更地のノート > 物語 > ひとつむぎ > 五月四日の章 赤の融合 > 14/14
暫くしてから消防車が現れた。 その頃には宗佑も理穂も家から完全に引き離され、強力な放水にさすがの火勢も一気に弱まる。 不安が徐々に現実のものになる。 家の二人が姿を現さない。 完全に鎮火したのは、それからまだ三十分ほど後のことだった。 警官も中に入って、何やら調べごとをしている。その間に、三人の巫女が現れた。一人は、昼間の結婚式の時に司会のような役をしていて、啓太が死んだ時に宗佑に話しかけた女。もう一人も啓太が死んだ時に来ていた女。以上の二人、特に後者はかなり若いのに対して、三人目は見たことの無い中年から老年の間くらいの、背の高い巫女だった。 やがて消防車が帰り、警察は三人の傍観者と巫女達の所へ来る。 「恐らく台所からの出火ですな。揚げ物でもしていたのでしょう」 宗佑が口を開こうとした瞬間に理穂に塞がれた。 「それから家のお二人ですが、残念ながら……」 と、警官はあまり残念ではなさそうに言う。 「え……」 思わず声を漏らす宗佑を、今度は理穂も止めなかった。 「どうなさいますか?」 と、結婚式の時の巫女が尋ねる。 「え、どうって? 何が?」 素っ頓狂な声をあげる宗佑の代わりに。 「いいえ、結構です」 理穂はぶっきらぼうに答える。 「さようですか。では」 「ええどうぞ遠慮なく」 睨み半分に見返す理穂。 巫女達はにっこりと笑って。 「行こう、宗佑」 「え? どこへ」 「いいから」 踵を返した理穂は、さっさと田んぼの方へ向かってしまう。 「宗佑様、お待ちください」 追おうとした宗佑を呼び止めたのは巫女。 「結婚式の折、この村の掟に従いなさいと申し上げましたね?」 「え? ああ」 「くれぐれも命をお大事に」 警官の先導の下、巫女達は焼け跡へ踏み入っていく。 理穂の姿はとっくに見えなくなっていた。月も明かりもない夜、足音だけを頼りにその足跡を踏み重ねる。 |