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 目が覚めた時に見たものは、見たことの無い天井。
 張り巡らされた木の板の下を筋交いのように這い回る細い柱。そこへ電灯の影が長く伸びている。窓の外は炎の色。ちょうど東側の窓のようだ。
 戸の向こうからはかすかに風音。換気扇の音。それに混じって、たまに水音も聞こえたりする。
 布団を跳ね除ける。着ていたのはシャツとトランクスだけ。枕の脇には畳んだジーパンがそっと置いてあった。
 とりあえず起き出してズボンを履いて、それからふすまを開ける。
 ここは廊下の途中。右を見ても左を見ても薄暗い廊下。床も天井も板張りで、裸電球がぶら下がっていた。
 物音を頼りに左へ進む。左右にあるふすまは全て閉じられていて、行き当たったのは洋式の扉だった。モザイクガラスの向こうには光があるようで、物音もその向こうからする。
 そっと手をかけた。
 開けた途端に、熱気と湿気が顔をなでる。目の前には椅子とテーブルがあり、その向こうでは鍋が煮えていて、そこから水蒸気が大量に発生していた。
「おはよう」
 そっけない言葉が自然に宗佑の耳に入る。
「早いな」
「犬の散歩しなきゃだし」
 見回すとすぐ傍の壁に時計があった。時刻は五時五十分過ぎ。
「座ってもいい?」
「誰がいけないなんて言うの。ここは今日からあなたの家でしょ」
「……そうか」
 そういえばそうなのだった。
「ところで、犬なんて飼ってたんだ?」
 理穂は鍋から目を離さない。煮ているのは鶏肉のようだ。
「そう。もらったいぬだけどね」
 宗佑は理穂につられて鍋を見て。
 それから。
「……ちょっと待った、もっかい言って」
「へ? このぬは貰ったぬだよって」
「……訛ってる!」
 理穂はビックリして振り返った。
「え、訛ってる?」
「俺はい≠チて言うけど、理穂さんはぬ≠チて言った」
「……ああ、そう」
 再び目線を鍋に戻す理穂だが、暫くして。
「これでもテレビ見て勉強したんだから!」
 また急に振り返ってそう言った。
「勉強?」
「共通語のお勉強! 訛ってたら恥ずかしいから」
「そういや、ここの若い人達ってあんまり訛ってないよな。啓太さんも」
「そやそや。おら達はみな都会に憧れんねが」
 むしろわざとらしい訛りで返事をする傍ら、理穂は鍋から取り出したものを金属の皿に盛り付けていく。
「ねえ、それは?」
「いぬの餌」
「俺の朝食じゃないのか……」
「おあずけ。おらはいぬに餌やってくるが。そこで待っとられ」
 理穂はその皿を持って勝手口から出て行ってしまった。
 宗佑は、部屋の中を見回す。
 年季の入った、しかしよく手入れのされた台所だ。
 

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