更地のノート > 物語 > ひとつむぎ > 五月二日の章 初見の従兄弟と婚約者 > 2/5

 

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「ここでええがか?」
 運転席から声が。
「昭島さん家は、今の道の突き当りを左に行って、そのずっと先にあんねが。車折り返せんから、悪いけんどここまでだっちゃ」
「ああ、構いませんよ。ホントにありがとうございました」
 荷台から飛び降りると車体が酷く揺れていた。
「東京から、何をしに?」
 荷台の女性がそう聞く。
「さあ? 何か話があるとか無いとか」
 そうとだけ言っておく。実際宗佑だって何も知らない。手紙の通りに来てみたはいいが、それ以上のことはまだ何も知らないのだ。
「じゃ、気ぃつけて行かれなさい」
 と言い残して、軽トラは土ぼこりをあげながら去っていった。
「……さて」
 まわりを見回しても、木に埋もれた廃屋と、今現役の家と、あとはひたすら田んぼと山しかない。
 このあたりの田んぼには既に水が引かれ、遠くの田んぼで田植えをしている者達も見受けられる。
 宗佑は左右を見回しながら、この盆地の奥の方へと歩きを進める。
「おい、おまえ」
 突然背後から呼び止められた。
 振り返れば、自転車に乗った、宗佑と大して歳の変わらない青年であった。
「どこの人だ? 見ねえ顔だな」
「あ、あの、大阪の方から」
「は? 大阪!? ……何しに?」
「いや、何か呼び出されて」
「誰に?」
「えっと、昭島って人から」
「ああ! ……あれ、大阪?」
「実家は東京なんですが」
「だよな?」
 彼はジロジロと宗佑を見回した。
 繰り返すが、見たところ宗佑とこの青年に年齢に大した差は無いはずである。しかし宗佑の抱いた彼の印象は、青年ではなく少年であった。
 さっきの女性もそうだが、ここの人間は若く見えるものなのだろうか。
 若いと言えば聞こえはいいが、要するに歳に不相応なほど子供じみて見えるのだ。
「案内するよ、こっち来られ」
 彼に従うまま、この砂利道を盆地の奥の方へと進んでいく。
途中、盆地の端の険しい山のすぐふもとにあるT字路に突き当たると、そこの駄菓子屋を見ながら左手に曲がり、ちょっと木の迫った箇所を抜けてすぐまた視界が開ける。今度は田んぼのど真ん中の道を右に曲がり、その細い道の先を指差して彼が言う。
「あれだよ」
 山の斜面を背中に抱えた、二階建ての大きな屋敷だった。
「でかいッスね」
「こんなんまだまだ。明井さん家の方がずっとでかいよ」
「明井さん?」
「あー、わかんないか。いいや」
 そう言って玄関の前まで行き。
「ちょっと待たれよ、今ばーちゃんに話してくる」
 玄関に宗佑を残してドタドタと家の中へ入っていった。
 宗佑はふとまわりを見回す。
 この位置だと日は山の陰になってしまい、ここだけ既に日が暮れている。
 振り返れば、田んぼの向こうの家々にはまだ日が当たっている。数件の、これと同じくらいの大きさに建物。そしてそのまわり一面の田んぼ。
――田舎だなあ。
 と、足音が戻ってきてドアが開いた。
「おら、啓太って言うねが。中入られよ」

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