更地のノート > 物語 > ひとつむぎ > 五月三日の章 田舎村観光 > 11/15

 

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 とりあえずは昭島邸のリビングに落ち着いた。
 昨日はやたら賑やかだった夕時のこの部屋に、今は理穂と宗佑しかいない。あれだけテーブルを賑わした料理も無い。今日は電気すら点けていない。
「……」
 理穂はこたつに入りながら、既に色を失いつつある空を窓から眺めている。
 宗佑はというと、時計と窓の外と理穂の顔をかわるがわる見比べるだけ。
 見知らぬ家のこれだけ広い部屋に真っ暗なまま佇み、おまけに理穂が物音ひとつ立てないでいるとなると、妙な寂しさと言い知れぬ恐怖感すら覚える。
 あまりにもたくさんの違和感がこの部屋を錯綜しているのだ。
 ある時、ようやく理穂が。
「……宗佑君」
 と口を開いた。
「ん?」
「あなたは何でここに来たの?」
「何でって?」
「ただ遊びに来たわけじゃないでしょう。今まで一度も来たことが無かったのに、どうして今更」
「今更って……。何か、急にエツさんに呼ばれて。あ、エツさんっておばあちゃんのことね」
「解ってるよ。……そう。急に呼ばれたの?」
「うん、四月の下旬に。手紙で」
「用件は?」
「用件……ねえ。大事な話があるとか何とか」
「大事な話って何?」
「いや、まだ聞いてないんだけど」
 理穂はようやく宗佑に顔を向ける。
「本当に手紙の内容はそれだけだったの?」
「うん、ちょっとした挨拶以外は、大事な話があるから来てくれってだけで」
「……」
「昨日その大事な話を聞こうとしたら、聞く前に啓太さんに散々飲まされて……それで」
「……」
 宗佑が覚えている啓太はそれが最後だ。
 まさにフェードアウトといった印象で、明確な最後も思い出せない。ただただひたすら日本酒を注いできた姿しか覚えていない。
「……ありがと」
 理穂はまた窓の外に目を向けた。
 このままでは、またさっきの状態に戻ってしまう。
「……なあ、理穂さん」
 理穂は横目でチラッとだけ、宗佑の方を向く。
「こんな時に聞くことじゃないけど……さっきのあの黒い奴は何?」
「……」
 理穂の鼻が鳴ったのは、笑ったのかも知れない。
「宗佑君、覚悟して聞いて欲しいんだけど」
「え? うん」
「あれはね、この村の秘密なんだよ」
「……へ?」
「もしも村外の人間に知られたとしたら、口を封じられることになるんだけど」
「何を冗談を」
 理穂は、再び宗佑の方に目を向ける。
 藤色の空がそのまま宿ったような目で。
「あの人達はね、一種の人柱みたいなものなの。ずっと昔からあの神社に常駐して、神の使いとして村のことを守ってくれてる」
「守って? 俺はあいつに襲われたぞ!」
「啓太もね」
 理穂の目つきが険しくなる。
 

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