更地のノート > 物語 > ひとつむぎ > 五月四日の章 赤の融合 > 3/14
「……宗佑君、この村について何も知らんが?」 「ええ。全く」 暎子はその返事に笑う。宗佑の無知を笑ったのだろうが、しかしあまり嫌味のない笑い方だった。 「この村は女の村。そやから男は男らしく、ただ堂々としておればいいのよ」 「堂々とって……いや、服装のこととか」 「いいっちゃいいっちゃ。堂々と。男の服装なんて誰も見ないから。あなたはそのままの服で、ただ堂々と裏殿で座られていればいいの。後は神社の人と理穂ちゃんが何とかするから」 「はぁ」 とは言っても、宗佑の今の服装はいかにも私服である。青のジーンズ、プリント入りの紺のTシャツと、これまた背中にプリントの入った白のシャツ。金属のボタンがかなりゴツい。 こんな服装では結婚式や葬式どころか、入学式にも成人式にも出られない。 「こんなんで出る結婚式なんて聞いたことありませんが」 「そんでええっちゃ。ここのしきたりだがに」 と、エツは宗佑の肩を叩いてなだめるように言う。 「つったって、こんな格好で、いきなり結婚式だなんて」 と、なおも困った顔をする宗佑だが。 「いいの。啓太も何も準備してなかったし。みんなそう、男の人は普通の服でいいんだよ」 理穂にまでそう言われては、信じるしかない。 「じゃあ宗佑君。こんからも理穂ちゃんを頼むど」 「……はあ」 これからも≠ニいうのは、本当はおかしい。 今までは≠ェないのだから。 |