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「……宗佑君、この村について何も知らんが?」
「ええ。全く」
 暎子はその返事に笑う。宗佑の無知を笑ったのだろうが、しかしあまり嫌味のない笑い方だった。
「この村は女の村。そやから男は男らしく、ただ堂々としておればいいのよ」
「堂々とって……いや、服装のこととか」
「いいっちゃいいっちゃ。堂々と。男の服装なんて誰も見ないから。あなたはそのままの服で、ただ堂々と裏殿で座られていればいいの。後は神社の人と理穂ちゃんが何とかするから」
「はぁ」
 とは言っても、宗佑の今の服装はいかにも私服である。青のジーンズ、プリント入りの紺のTシャツと、これまた背中にプリントの入った白のシャツ。金属のボタンがかなりゴツい。
 こんな服装では結婚式や葬式どころか、入学式にも成人式にも出られない。
「こんなんで出る結婚式なんて聞いたことありませんが」
「そんでええっちゃ。ここのしきたりだがに」
 と、エツは宗佑の肩を叩いてなだめるように言う。
「つったって、こんな格好で、いきなり結婚式だなんて」
 と、なおも困った顔をする宗佑だが。
「いいの。啓太も何も準備してなかったし。みんなそう、男の人は普通の服でいいんだよ」
 理穂にまでそう言われては、信じるしかない。
「じゃあ宗佑君。こんからも理穂ちゃんを頼むど」
「……はあ」
 これからも≠ニいうのは、本当はおかしい。
 今までは≠ェないのだから。
 

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